口コミの依頼・謝礼・転載——クリニックだけ「広告と明示すれば済む」が通らない理由
来院した方に口コミの投稿をお願いする、投稿してくれた方に割引を渡す、良い口コミを自院サイトに載せる。どれも一般の店舗では日常的に行われていますが、医療機関では結論が変わります。景品表示法のステマ規制に加えて、医療広告ガイドラインがもう一段かぶさるためです。
- 消費者庁「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準(令和5年3月28日 消費者庁長官決定) https://www.caa.go.jp/notice/assets/representation_cms216_230328_03.pdf
- 厚生労働省「医療法における病院等の広告規制について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/kokokukisei/index.html
景品表示法の側:境目は「表示内容の決定に関与したか」
ステマ告示が対象にするのは、外から見ると第三者の投稿に見えるものが、実は事業者の表示である場合です。運用基準は、その分かれ目をこう定めています。
外形上第三者の表示のように見えるものが、事業者の表示に該当するとされるのは、事業者が表示内容の決定に関与したと認められる、つまり、客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められない場合である。
明示的に「こう書いてください」と頼んでいなくても、関係性次第で該当します。判断材料として挙げられているのは、やり取りの態様や内容、提供する対価の内容とその理由、関係性がどれだけ続いているか、といった実態です。対価の範囲も広く取られています。
事業者が第三者の表示に対して支払う対価については、金銭又は物品に限らず、その他の経済上の利益(例えば、イベント招待等のきょう応)など、対価性を有する一切のものが含まれる。
事業者の表示にならない例も具体的に挙がっている
一方で、関与があっても第三者の自主的な意思による内容と認められるなら、事業者の表示にはなりません。実務で参考になるのは次の例です。
ECサイトに出店する事業者が自らの商品の購入者に対して当該ECサイトのレビュー機能による投稿に対する謝礼として、次回割引クーポン等を配布する場合であっても、当該事業者(当該事業者から委託を受けた仲介事業者を含む。)と当該購入者との間で、当該購入者の投稿(表示)内容について情報のやり取りが直接又は間接的に一切行われておらず、客観的な状況に基づき、当該購入者が自主的な意思により投稿(表示)内容を決定したと認められる投稿(表示)を行う場合。
謝礼を渡すこと自体ではなく、投稿の中身についてやり取りしたかどうかが分かれ目になっています。事実誤認の訂正についても注記があります。
当該購入者の投稿(表示)内容に誤記があり、当該商品を販売する事業者等の社会的評価を低下させるようなおそれがあるため、当該事業者が当該購入者に対して投稿(表示)内容の修正を依頼したとしても、それだけをもって、当該購入者の表示が当該事業者の表示とされるものではない。
ここまでが、業種を問わない一般のルールです。
医療機関の側:依頼や謝礼があると「広告」になり、広告なら認められない
医療広告ガイドラインは、患者が自ら書いた体験談を広告とは見なさない、と整理しています。誘引性の要件を満たさないためです。ただし、続く但し書きが重要です。
ただし、A病院からの依頼に基づく手記であったり、A病院から金銭等の謝礼を受けている又はその約束がある場合には、①の「誘引性」を有するものとして取り扱うことが適当である。また、個人XがA病院の経営に関与する者の家族等である場合にも、病院の利益のためと認められる場合には、①の「誘引性」を有するものとして、取り扱うものであること。
依頼や謝礼があると、その口コミは医療広告の枠に入ります。そして医療広告の枠に入った体験談は、ガイドラインが正面から認めていません。
こうした体験談については、個々の患者の状態等により当然にその感想は異なるものであり、誤認を与えるおそれがあることを踏まえ、医療広告としては認められない。
つまり、一般の事業者であれば「広告」「PR」と明瞭に示すことでステマ規制の問題は解消しますが、医療機関の場合は明示しても解決しません。明示によって広告であることがはっきりするだけで、体験談の広告そのものが認められていないからです。口コミ施策を設計するときに、ここが最も食い違いやすい点です。
自院サイトに口コミを転載するとき
第三者の投稿を自社サイトで使う場合についても、運用基準は事業者の表示にならない条件を示しています。
事業者が自社のウェブサイトの一部において、第三者が行う表示を利用する場合であっても、当該第三者の表示を恣意的に抽出すること(例えば、第三者のSNSの投稿から事業者の評判を向上させる意見のみを抽出しているにもかかわらず、そのことが一般消費者に判別困難な方法で表示すること。)なく、また、当該第三者の表示内容に変更を加えること(例えば、第三者のSNSの投稿には事業者の商品等の良い点、悪い点の両方が記載してあるにもかかわらず、その一方のみの意見を取り上げ、もう一方の意見がないかのように表示すること。)なく、そのまま引用する場合。
条件は2つ、恣意的に抜き出さないことと中身に手を加えないことです。裏を返せば、良い評価だけを選んで並べる、良い点と悪い点が書かれた投稿から良い点だけを取り上げる、という作りは事業者の表示になります。加えて医療機関では、転載した内容が治療内容や効果に関する患者の主観であれば、前節の体験談の話に戻ります。
規制の対象は医療機関だけではない
もう一点、見落とされやすいのが対象範囲です。
医師若しくは歯科医師又は病院等の医療機関だけではなく、マスコミ、広告代理店、アフィリエイター(略)、患者又は一般人等、何人も広告規制の対象とされるものである。
外部の代理店やアフィリエイターに任せた場合でも、依頼元が無関係になるわけではありません。
点検の順番
- 投稿の中身についてやり取りしていないか:文面案の提示、修正依頼(誤記の訂正を除く)、掲載場所の指定。
- 謝礼や便宜を渡していないか:金銭に限らず、割引・招待・物品も対価に含まれる。医療機関では謝礼があるだけで誘引性を持つ。
- 自院サイトへの転載を見直す:良い評価だけの抽出になっていないか。治療の効果に関する主観は体験談として扱われる。
- 「PR」と書けば済む、と考えていないか:一般の事業者と医療機関で結論が違う。
- 外注先の運用も確認する:代理店・アフィリエイターも規制の対象。
まとめ
口コミ施策は、景品表示法の側では「中身に関与したか」で線が引かれ、医療広告の側では「依頼や謝礼があるか」で広告かどうかが決まります。そして広告になった体験談は、明示しても認められません。集患の手段として口コミを組み立てるなら、依頼や謝礼を伴わない形に寄せるのが安全側の設計になります。
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