「通常◯◯円→今なら◯◯円」——自由診療の費用表示にかかる二重の網
自由診療の料金ページには、性格の違う2つのルールが同時にかかります。ひとつは医療広告ガイドライン(厚生労働省・令和8年3月30日最終改正)で、そもそも何をどこまで書けば広告してよいかという話。もうひとつは景品表示法で、「通常◯◯円」のような比べ方が実態に合っているかという話です。片方だけを直しても、もう片方で引っかかります。
- 厚生労働省「医療法における病院等の広告規制について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/kokokukisei/index.html
- 消費者庁「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」 https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/guideline/pdf/100121premiums_35.pdf
1つ目の網:費用を書くことが広告の条件になっている
自由診療の内容を自院サイトに載せられるのは、広告可能事項の限定解除という仕組みによります。その要件のひとつが費用等の情報提供で、ガイドラインは中身をこう説明しています。
当該医療機関で実施している治療等を紹介する場合には、治療等の名称や最低限の治療内容・費用だけを紹介することにより患者等を誤認させ不当に誘引すべきではなく、通常必要とされる治療内容、標準的な費用、治療期間及び回数を掲載し、患者等に対して適切かつ十分な情報を分かりやすく提供すること。
料金表に施術名と最低価格だけを並べる形は、ここで正面から否定されています。求められているのは、通常必要とされる治療内容・標準的な費用・治療期間・回数の4点セットです。
金額が一律に決まらない施術についても、逃げ道ではなく書き方が示されています。
標準的な費用が明確でない場合には、通常必要とされる治療の最低金額から最高金額(発生頻度の高い追加費用を含む。)までの範囲を示すなどして可能な限り分かりやすく示すこと。
「カウンセリングでお見積り」で済ませず、幅で示す。しかも発生頻度の高い追加費用を含めた幅です。麻酔代やアフターケア代を別立てにして本体価格だけ安く見せる作りは、この一文と噛み合いません。
置き場所についても指定があります。
当該情報の掲載場所については、患者等にとって分かりやすいよう十分に配慮し、例えば、リンクを張った先のページへ掲載したり、利点や長所に関する情報と比べて極端に小さな文字で掲載したりといった形式を採用しないこと。
2つ目の網:「通常◯◯円」には実績が要る
ここからは景品表示法です。消費者庁の考え方は、比較対照価格の使い方をこう整理しています。
これらの比較対照価格については、事実に基づいて表示する必要があり、比較対照価格に用いる価格が虚偽のものである場合には、一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え、不当表示に該当するおそれがある。
問題は「実際に付けていた値段かどうか」だけではありません。いつ・どれだけの期間その値段だったかが問われます。
「最近相当期間にわたって販売されていた価格」の目安
判断の物差しは具体的です。
一般的には、二重価格表示を行う最近時(最近時については、セール開始時点からさかのぼる8週間について検討されるものとするが、当該商品が販売されていた期間が8週間未満の場合には、当該期間について検討されるものとする。)において、当該価格で販売されていた期間が当該商品が販売されていた期間の過半を占めているときには、「最近相当期間にわたって販売されていた価格」とみてよいものと考えられる。
そのうえで、満たしていても認められない条件が続きます。
ただし、前記の要件を満たす場合であっても、当該価格で販売されていた期間が通算して2週間未満の場合、又は当該価格で販売された最後の日から2週間以上経過している場合においては、「最近相当期間にわたって販売されていた価格」とはいえないものと考えられる。
さかのぼって8週間・その過半・通算2週間以上・最後に付けていた日から2週間以内。この4つが目安です。年に一度だけ数日間その価格にして、あとはずっと「通常◯◯円」と並べておく運用は、この基準から外れます。
実績作りは、期間を正しく書いても認められない
見落としやすいのが次の一文です。
セール実施の決定後に販売を開始した商品の二重価格表示については、商品の販売開始時点で、セールにおいていくらで販売するか既に決まっており、セール前価格は実績作りのものとみられることから、セール前価格で販売されていた期間を正確に表示したとしても、不当表示に該当するおそれがある。
「2週間だけ通常価格で出してから割引を始める」という段取り自体が、比較のための実績作りと見られます。期間を正直に書けば通る、という話ではありません。
「今後値上げします」型も同じ扱い
将来の価格を引き合いに出す形についても書かれています。
表示された将来の販売価格が十分な根拠のあるものでないとき(実際に販売することのない価格であるときや、ごく短期間のみ当該価格で販売するにすぎないときなど)には、一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え、不当表示に該当するおそれがある。
「モニター募集は今だけ、来月から通常料金◯◯円」と書くのなら、その通常料金で実際に販売する見込みが要ります。
モニター価格を出すときに増える論点
モニター価格には、費用の話に加えて写真と体験談の話が乗ります。撮影した術前術後の写真を掲載する場合、医療広告ガイドラインの側で説明の中身と置き方が決まっており、患者の感想を載せる形は別の制限がかかります。この部分は体験談とビフォーアフター写真の記事で扱っています。
点検の順番
- 料金表に4点が入っているか:通常必要とされる治療内容・標準的な費用・治療期間・回数。
- 幅で示しているか:一律に決まらないなら最低〜最高金額。発生頻度の高い追加費用を含める。
- 「通常価格」に実績があるか:さかのぼって8週間・その過半・通算2週間以上・最後に付けた日から2週間以内。
- 割引を決めてから通常価格を並べていないか:実績作りは期間を正しく書いても認められない。
- 将来価格を根拠なく使っていないか:「来月から◯◯円」は実際に販売する見込みが前提。
- 注記の置き場所と文字の大きさ:別ページのリンクや極小の文字にしない。
まとめ
自由診療の料金ページは、書かないことでも書きすぎることでも問題になります。医療広告ガイドラインは中身を十分に書くことを求め、景品表示法は比べ方に実績を求める。方向の違う2つを同時に満たす必要がある、という整理で見ると点検しやすくなります。
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