「日本一」も「比較的安全」も通らない——比較優良広告と誇大広告の線引き
医療広告には、内容が本当かどうかとは別の軸で禁じられる表現があります。ひとつは他院より優れていると示す比較優良広告、もうひとつは印象と実際がずれる誇大広告です。どちらも医療広告ガイドライン(厚生労働省・令和8年3月30日最終改正)に具体例が列挙されているので、そのまま照らし合わせられます。
- 厚生労働省「医療法における病院等の広告規制について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/kokokukisei/index.html
比較優良広告:事実でも禁止される
まず押さえるべきは、真偽の問題ではないという点です。
これは、事実であったとしても、優秀性について、著しい誤認を与えるおそれがあるために禁止されるものであり、例えば、「日本一」、「№1」、「最高」等の最上級の表現その他優秀性について著しく誤認を与える表現は、客観的な事実であったとしても、禁止される表現に該当する。
実際に日本一の実績があっても書けません。挙げられている具体例は、言い回しを変えた形も含みます。
・ 「肝臓がんの治療では、日本有数の実績を有する病院です。」
・ 「当院は県内一の医師数を誇ります。」
・ 「本グループは全国に展開し、最高の医療を広く国民に提供しております。」
「日本一」と直接書かなくても、「日本有数」「県内一」は同じ扱いです。
著名人との関係を出すのも比較優良広告
意外に思われやすいのがここです。
また、著名人との関連性を強調するなど、患者等に対して他の医療機関より著しく優れているとの誤認を与えるおそれがある表現は、患者等を不当に誘引するおそれがあることから、比較優良広告として取り扱う。
具体例として「芸能プロダクションと提携しています」「著名人も○○医師を推薦しています」「著名人も当院で治療を受けております。」が挙がっています。有名人の来院に触れること自体が、比較優良広告の側に置かれています。
数字を出すなら根拠と出典
最上級でなければ事実を書けないわけではありませんが、条件が付きます。
ただし、最上級を意味する表現その他優秀性について著しい誤認を与える表現を除き、必ずしも客観的な事実の記載を妨げるものではないが、求められれば内容に係る裏付けとなる合理的な根拠を示し、客観的に実証できる必要がある。調査結果等の引用による広告については、出典、調査の実施主体、調査の範囲、実施時期等を併記する必要がある。
アンケート結果や満足度を載せるなら、出典・実施主体・範囲・時期の4点を添えるのが前提です。
誇大広告:誤認した人がいなくても成立する
判定の基準が明確に書かれています。
「人を誤認させる」とは、一般人が広告内容から認識する「印象」や「期待感」と実際の内容に相違があることを常識的判断として言えれば足り、誤認することを証明したり、実際に誤認したという結果までは必要としない。
「クレームが来ていないから大丈夫」という整理は成り立ちません。以下、列挙されている具体例のうち、自由診療で当たりやすいものを挙げます。
注釈で逃げられない費用表示
(美容外科の自由診療の際の費用として)「顔面の○○術1カ所○○円」
→例えば、当該費用について、大きく表示された値段は5カ所以上同時に実施したときの費用であり、1カ所のみの場合等には、倍近い費用がかかる場合等、小さな文字で注釈が付されていたとしても、当該広告物からは注釈を見落とすものと常識的判断から認識できる場合には、誇大広告として取り扱う。
注釈を書いたかどうかではなく、見落とすと常識的に言えるかどうかで判断されます。費用表示そのものの要件は自由診療の費用表示の記事で扱っています。
当然のことを強調する
「知事の許可を取得した病院です!」(「許可」を強調表示する事例)
→病院が都道府県知事の許可を得て開設することは、法における義務であり当然のことであるが、知事の許可を得たことをことさらに強調して広告し、あたかも特別な許可を得た病院であるかのような誤認を与える場合には、誇大広告として取り扱う。
更新していない数字
医師数の例が挙げられています。掲載時点では事実でも、その後大きく減ったまま放置すれば誇大広告として扱われます。人員に関する数値は随時更新する前提で作る必要があります。
実態のない団体の認定
・ 「○○学会認定医」(活動実態のない団体による認定)
・ 「○○協会認定施設」(活動実態のない団体による認定)
医療機関の関係者自身が実質的に運営している団体や、活動実態のない団体による認定は誇大広告として扱うべきとされています。そもそも広告できる資格の範囲は別途決まっており、診療科名と肩書の記事で整理しています。
「○○センター」を名乗れる場合
法令の規定や国の定める事業を実施する医療機関である場合、または地域における中核的な機能・役割を担っていると都道府県等が認める場合に限られ、それ以外は誇大広告として扱われます。ただし院内掲示している部門名をそのままサイトに載せている場合は、原則として誇大とは扱わないとされています。
術前術後の写真の撮り方
撮影条件や被写体の状態を変えるなどして撮影した術前術後の写真等をウェブサイトに掲載し、その効果又は有効性を強調することは、患者等を誤認させ、不当に誘引するおそれがあることから、そうした写真等については誇大広告として取り扱う。
加工・修正まで行えば虚偽広告に該当します。照明や角度を揃えるという撮影の作法が、そのまま規制の話につながっています。
曖昧な比較と、不安を煽る表現
「比較的安全な手術です。」
→何と比較して安全であるか不明であり、誇大広告として取り扱う。
さらに、科学的根拠に乏しいまま特定の症状のリスクを強調して受診へ誘導する表現(「こんな症状が出ていれば命に関わりますので、今すぐ受診ください。」)、有効性を強調して特定の手術へ誘導する表現(「○○手術は効果が高く、おすすめです。」)、逆に他の手術のリスクを強調して自院の術式へ誘導する表現も、いずれも誇大広告として挙げられています。
点検の順番
- 最上級とその言い換えを検索する:日本一、№1、最高、日本有数、県内一、トップクラス。
- 著名人・有名人への言及を消す:来院の事実も提携も、比較優良広告として扱われる。
- 数字に出典と時点を添える:出典・実施主体・範囲・実施時期。人員数は更新の担当を決める。
- 注釈の大きさと位置を見る:見落とすと言えるなら、書いてあっても誇大。
- 認定・センター名の根拠を確認する:団体の活動実態、都道府県等の認定の有無。
- 症例写真の撮影条件を揃える:加工は虚偽広告、条件違いは誇大広告。
- 不安を煽る導線を外す:「今すぐ受診」「命に関わります」。
まとめ
比較優良広告は真偽を問わず最上級を禁じ、誇大広告は実際の被害を問わず印象と実際のずれを見ます。どちらも「嘘は書いていない」という反論が効かない構造です。ガイドラインが具体例を列挙してくれているので、表現の一覧を作って突き合わせるのが確実です。
公開前の原稿を貼って、問題になりやすい表現をまとめて洗い出したいときは、イイカエのような下書き段階のチェックの道具を使うのも一つの手です(適否の最終判断を代わりに行うものではありません)。
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